食品の原材料費高騰の原因と収益を上げるために食品業が取るべき対策

公開日:2023.09.27
更新日:2024.11.13

食品の原材料費高騰の原因と収益を上げるために食品業が取るべき対策

近年の新型コロナウイルス禍による経済状況の悪化やウクライナ情勢の深刻化をはじめとする国際情勢は、エネルギー価格や資源価格の上昇を引き起こし、食品産業にも大きな影響を与えています。今回は、食品の値上がりに影響を与えている原材料高騰などの原因を整理し、適正な価格を設定し収益を上げるためには何をすればいいのかを考察します。

食品の価格動向

日本は海外と比べて物価が上がりにくいとされてきましたが、近年は食品価格の上昇傾向が続いています。
総務省が調査した消費者物価指数の推移をみると、2000年代前半や2010年代前半は日本経済のデフレにより食品価格が低下傾向にありましたが、2014年以降は上昇し続けているという状況です。
特に2021年後半から上昇率が大きくなっています。

食品消費者物価指数推移
食品価格動向調査(加工食品)
食品価格動向踏査(食肉・鶏卵・魚介類)

値上がり率の高い食品を見ると、加工食品では小麦加工品や油脂類の値上がりが大きく、食肉や魚介類においても輸入牛肉やまぐろ、さけの価格が高くなっています。

原材料高騰で価格改定相次ぐ 食品メーカーの値上げ動向

帝国データバンクの「食品主要195社 価格改定動向調査」によると、2023年9月の食品値上げは2,067品目となり、2023年10月までの値上げ品目は3万1,000品目を超え、その平均値上げ率は15%になる見込みです。
2022年が2万5,768品目で平均値上げ率が14%であることからも、値上げされた食品が大幅に増えたことがわかります。
そして、その値上げ原因において複数挙げられたもののうち、原料高98.8%、エネルギーが83%、包装資材、物流がそれぞれ60%ほどで続き、複数の要因が食品価格の上昇に影響をおよぼしています。

値上げが続くなか、消費者の動向も変化してきました。低価格商品やプライベートブランドに人気が集まるほか、購買数も減少しています。
食品メーカーにおいても値上げによって売上が伸び悩むケースや、値上げの浸透により収益が改善するケースがあるなど、明暗が分かれ始めているようです。

参考:帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査 ― 2023年9月

食品・原材料が値上がりした原因とは

食品およびその原材料の値上がりには様々な要因がありますが、主な原因についてみてみましょう。

1.原材料の価格高騰
2.物流費の上昇
3.人件費の上昇
4.食料自給率の低さと輸入価格の上昇

原材料の価格高騰

天候不良や紛争などにより生産量が低下することで、原材料の価格が高騰します。
近年では、各国での異常気象の影響による農作物の不作や、ウクライナ情勢の悪化による小麦や油脂類等の流通停滞がこれらの価格上昇につながっています。

物流費の上昇

物流費は、輸送費、保管費、荷役費、包装費、物流管理費で構成されています。日本ロジスティクスシステム協会が実施した物流コスト調査によると、全業種における輸送費の占める割合は55%と高く、保管費が17%、それ以外が28%という結果となり、輸送費の占める割合が大きいことがわかります。
物流費全体に占める割合の高い輸送費ですが、原油価格変動の影響を受けたガソリン価格の高騰や、ドライバー不足による人件費の高騰により物流費の上昇に大きく影響しています。

また、ネット通販の拡大や消費者ニーズの多様化に合わせて商品の多品種小ロット化が進むことで、積載効率の低下や輸送頻度の増加を招いていることも物流費上昇の一因となっています。

参考:公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「2022年度 物流コスト調査報告書【概要版】」

人件費の上昇

人件費の上昇も食品やその原材料価格高騰に影響します。
人件費が上昇する要因には、労働人口の減少や最低賃金の引き上げが挙げられるでしょう。

参考:公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「2022年度 物流コスト調査報告書【概要版】」

労働人口の減少

総務省統計局の国勢調査によると、15~64歳の過去30年での人口は1995年(8,726万人)をピークに減少し、2020年には7,500万人になっています。また、総人口に占める割合も1994年(69.8%)をピークに2020年では59.5%まで減少しています。
こうした生産年齢人口の減少が労働力確保の競争をまねき、人件費上昇につながります。

参考:総務省統計局「人口推計」

最低賃金の引き上げ

2023年度(令和5年度)における最低賃金の全角加重平均額は1,004円です。2019年度(令和元年度)は901円でしたので、100円以上も上がっています。
他社の求人と差別化して人材を確保するためには、最低賃金に上乗せした額を提示することが求められます。最低賃金の引き上げは、人件費高騰に大きく関係しているといえるでしょう。

参考:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」

食料自給率の低さと輸入価格の上昇

日本の食料自給率は2022年度においてカロリーベースで38%、生産額ベースで58%です。直近20年ではほぼ横ばいですが、長期的には右肩下がりの傾向を示しています。

日本の食料自給率

諸外国と比べても低く、先進国の中においては最低水準の自給率となっています。

世界の食料自給率

米や鶏卵、野菜の自給率は高い一方、小麦や大豆、油脂類は低く、その大部分を輸入に頼っている現状です。
これらの生産国で天候不良や情勢不安によって生産量が減ると輸出量も減り、価格高騰の一因となります。また、為替の影響も受けるため、昨今の円安が価格高騰に大きな影響を受けています。

参考:農林水産省「日本の食料自給率」
   農林水産省「世界の食料自給率」

食品メーカーが取れる原材料高騰対策とは

原材料の高騰で生産コストが高くなっているため、食品メーカーでは様々な面でのコスト削減や省人化が求められます。出費を抑えて業務を効率化することで生産コストを抑えつつ、必要に応じて値上げも視野に入れることが企業の経営安定化にもつながるでしょう。
そこで、どのような対策が取られているのかをいくつかみていきたいと思います。

1.仕入コストを削減
2.商品のリニューアル
3.在庫管理の徹底によるロスの削減
4.原価管理による適正価格の算出

仕入コストを削減

価格が上昇した原材料を利用し続けると、いずれはその上昇分を商品に転嫁しなければならなくなります。それを回避するために、安価に仕入れられる取引先の厳選や、生産者との直接取引などで仕入コストを下げることを検討しなければなりません。
また仕入れロットの大型化により、単価を下げる方法も考えられます。その場合、仕入れた分をロスしないように生産量や在庫管理を徹底する必要があります。

関連記事:販売計画の策定から、生産計画・生産指示を効率化する方法

商品のリニューアル

商品の値上げは、短期的には販売数が減少してしまいます。消費者の購買意欲を維持するために、価格据え置きで商品をリニューアルするという方法も挙げられます。


・原材料を変更
・商品包装の簡易化
・内容量の縮小

内容量の縮小は、消費者からのイメージダウンにもつながりかねないため、付加価値を付けるなどの改善を同時に行う必要があるでしょう。
また、惣菜などの複数の食材が入ったものであれば、メイン以外の食材を変更することで価格を維持しやすくなります。

在庫管理の徹底によるロスの削減

原材料や製品の在庫管理を改善することで、在庫ロスを削減できます。ロスを削減できれば、その分の利益で原料価格の高騰分を吸収することができるでしょう。
食品には賞味期限があるため、食品以外のものと比較すると適切な管理をするためにはより細かな管理が必要になります。
在庫ロス削減をするための原材料や製品の賞味期限管理、適切な在庫管理を行うためにはシステムを活用することが大きな効果をもたらします。

関連記事:在庫ロスによる損失を防ぐ方法
     ロット管理・賞味期限管理をするメリット

原価管理による適正価格の算出

原材料の価格変動が大きく、多品種小ロットでの生産が増えつつある食品製造業においては、利益を確保するための原価管理が欠かせません。
原材料だけでなく、労務費や経費も加味した原価を把握することが、商品価格の決定や経営判断のための重要な資料となります。
複数の要素が絡むため複雑になる原価管理は、システムの活用がお勧めです。予定原価と実際原価の比較や、スピーディな現状把握と原価見直しなどが可能になるでしょう。

今後の予想がしづらい原材料価格ですが、原価を構成する要素の変動要因を予測し、原価や収益に与える影響度を分析するためのシミュレーションができる原価管理システムもあります。
既存商品の改廃や新商品開発のためにも原価シミュレーションは大きな助力となります。

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原材料の高騰に打ち勝ち利益を出すために

様々な要因で高騰する原材料価格により食品価格を値上げせざるを得ない状況にありますが、上昇幅を抑えて利益を確保していく方法をいくつか挙げてきました。
自社の製品価格を構成している要素を把握することで、何を見直していけば良いかを明らかにしましょう。効果が高くなるものから優先的に着手することで効率的に改善を進めることができます。
また、原材料と製品のロスを削減するための在庫管理も見直すことが重量です。

食品業の原価管理ソリューション

原料価格や物流コスト高騰の影響を大きく受けている食品業での原価管理は、利益確保や今後の販売計画を立てるうえで重要な意味を持ちます。しかし、様々な要素が絡む原価を計算するのは煩雑で、一筋縄ではいきません。最も有効な施策といえるのが専用システムの導入です。
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