食品業のBCP対策~ITを活用した不測の事態への備え~

公開日:2023.11.20
更新日:2023.12.19

食品業のBCP対策~ITを活用した不測の事態への備え~

食品事業者は、地震や洪水などの大規模な災害や感染症の拡大など予期せぬ事態が発生しても、安定した食料供給を続ける必要があります。しかし、災害時の対応が不十分だと、事業の復旧に多くのコストがかかるだけでなく、取引停止が長引くと企業の信用にも影響しかねません。そこで、注目されているのが「BCP(事業継続計画)」です。事業継続や早期復旧が図られ、被災時のリスクを最小限に抑えることができます。食品事業者はどのようにBCPを策定していけばよいのか、考察してみましょう。

1.BCP対策とは

BCPとは、「事業継続計画(Business Continuity Plan)」の略称です。

これは、企業が自然災害やパンデミックなどの緊急事態に直面した際に、事業資産の損害を最小限に抑えつつ、中核的な事業の継続または早期復旧を可能にするための計画です。通常時における活動や緊急時に事業を継続するための手段や方法などが規定されています。


日本の地震の発生回数は、世界の18.5%(※1)と高い割合を占めていることからもわかりますとおり、他の国々と比較して自然災害が特に多い国という印象があります。

こうした危機的状況に直面しても、人々に安定した食料供給を確保することが重要です。そのため、食品事業者のBCP対策が望まれています。

※1:2004年~2013年の世界のマグニチュード6以上の地震の発生回数1,629回のうち、日本は302回(18.5%)。
内閣府防災情報「令和元年版防災白書」より

BCPはなぜ必要なのか

BCP対策をおこなうことは倒産を回避し、利害関係者からの信頼を高めるために必要とされています。

東日本大震災による倒産は、2011年~2016年の5年間で1,898件(※2)。また、新型コロナウイルス関連倒産は、2020年から2023年の4年間で 6,761 件(※3)と東日本大震災や新型コロナウイルスの影響で、多くの企業が倒産に至ったことが直近の事例です。

事業の継続ができなくなることは、企業や従業員だけでなく、消費者や取引先にも影響を及ぼします。最悪の場合、連鎖的に倒産リスクが取引先にまで及ぶ可能性もあります。


一方で、BCP対策を行うことで、事業の中断を防ぐことができます。これにより、サプライチェーン全体の事業継続が実現され、災害時でも消費者に商品やサービスを継続的に提供できる可能性が高まります。こうしたBCP対策は、防災対策だけでなく、経営戦略上も不可欠です。

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2.食品業におけるBCP対策

大規模な災害や新型インフルエンザのような緊急事態が発生した際、食料の安定的な供給を確保するために、食品業者が事業を継続することが望まれます。これらの緊急事態が発生し、企業が大きな影響を受けた場合でも、重要な業務を中断せず、もし中断したとしても早急に復旧できるよう、食品業におけるBCP対策として、農林水産省が「食品産業事業者等の事業継続計画(BCP)の推進」を推進しています。

ここでは、農林水産省が提供している資料「事業継続の検討、計画策定のための参考資料の基礎編」をもとに、計画策定時に検討するべき項目を一部抜粋して紹介します。

1.基本方針の策定

1)基本方針

  • 事業者として、想定した災害(想定外の災害)に“どのような心構え”で取組むのかを具現化したもの。
  • 災害時対応の“拠り所”となるもので、判断や行動に迷った際にはこの基本方針に立ち返る。

2.危機管理体制の構築

1)危機管理体制のあるべき姿

  • 危機の発生時に備えて、危機管理体制(=“対策本部”)を決めておく必要がある。
  • 対策本部では、「意思決定」、「役割」、「指示系統」が明確に求められる。
  • 迅速な対策本部の設置、適切な初動対応、不測の事態への意思決定など、スピーディかつ適切・柔軟な対応が自社の存続を左右する。

2)危機対策本部の体制・役割

  • 対策本部では、“本部長”をトップとする体制を組織し、機能ごとの役割を明確に決める。
  • 本部機能としては、「社内支援」、「業務運営」、「社外連携」の3つの機能が必要。
  • 対策本部内、対策本部と従業員や家族、社外関係者との“連携・情報共有”を有効に機能させる。

3.重要製品・業務

1)重要製品・業務の選定

  • 大規模な災害などが発生した際にも、自社として優先的に復旧・継続すべき“重要製品・業務”を事前に選定しておく。
  • 食品産業事業者として、次の観点を総合的に判断して定める。
    ◆社会的責任
    ◆サプライチェーン(フードチェーン)の維持(顧客・取引先等への影響)
    ◆自社の財務への影響(自社の主力製品・商品またはサービス)
  • 緊急事態発生時には、経営資源(ヒト・モノ・情報・資金等)が大幅に限定される。企業の規模等によっては、顧客や市場の状況を把握している経営者の判断によって選ぶこともできる。
    ⇒ 経営資源が一定期間にわたって一部が利用できなくなる事態を想定し、その事態が自社に与える影響を考慮(=事業影響度分析)した上で、重要製品・業務を選定する。

2)重要製品の選定

優先的に供給する製品・商品・サービスを決める場合は、まず製品・商品・サービスを決め、その供給に関わる全ての業務を洗い出す。
次に、それら全ての業務の中でも継続が必要な業務を重要業務とする。

今回ご紹介した「基本方針」、「組織体制」、「重要製品・業務」は、BCPの本質的な項目です。こちらは、主に事業継続計画を未策定の事業者を対象とし、事業継続計画を策定する際に必要な技術的・専門的知識を普及することを目的とされています。BCP対策を策定するために、その他にも想定されるリスクの洗い出しやBCP発動の明確な基準の策定、復旧する事業の優先順位策定、そしてRTO・RPO・RLOの設定、責任者の決定、具体的な行動指針の決定、定期チェックリストの作成などのステップがあります。

続いて、具体的な対策を策定するために、不可欠となる3要素について説明します。

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3.BCP対策に求められる『3つのR』

BCP対策において不可欠となる3要素はRTO・RPO・RLOという目標値です。「3つのR」とも呼ばれ混同してしまうため、違いについて説明します。

RTOは「いつまでに」、RPOは「どの時点まで」、そしてRLOは「どのレベルで」という目標値になります。


3つのR

1.目標復旧時間 (RTO:Recovery Time Objective)

RTOは、事業が中断した際に「いつまでに事業を復旧させるか」という目標時間を表す指標です。災害などが原因で機能停止に陥った業務やシステムを復旧させるまでにかかる「時間」を意味します。

例えば、食品事業者様ですと、目標復旧時間は、「地震発生後、○日以内に工場の稼働再開、重要製品の生産を開始する」のようなイメージです。

2.目標復旧レベル (RLO:Recovery Level Objective)

RLOは、障害などにより業務が中断し落ち込んでしまった運用レベルを、決められた時間内(RTO)に、「どのレベルまで復旧させるか」といった目標レベルのことを指します。

例えば、食品事業者様ですと目標復旧レベルは、「通常時と比べて70%ほどの供給量を確保」のようなイメージです。基幹システムが機能停止となってしまった場合、サービスの再開には、いつまでにどのレベルまで復旧させる必要があるかを決めなければなりません。

3.目標復旧地点 (RPO:Recovery Point Objective)

RPOは、障害などによりデータが損壊・紛失してしまった際、決められた時間内(RTO)にどの時点のデータを復旧しなければならないのか、といった「どの時点のデータ」のことを指します。

これら「3つのR」は相互に関係しているため、セットで作成する必要があり、全てが事業の復旧や災害復旧戦略を構築する上で重要です。

ITシステムの運用を維持するためのIT-BCP

ITにおけるBCP対策を表す「IT-BCP」があります。IT-BCPとは、BCP(事業継続計画)の一つであり、緊急時にもビジネスに必要なITシステムの運用を維持することを目的として策定されています。
自然災害やサイバー攻撃の被害に遭った際でも、ITシステムを運用し続けられるように試みるのがIT-BCPの目的といえます。

近年、多くの企業がITシステムを利用して事業を運営しています。ITシステムは事業を営むうえで大きな役割を担っており、システムダウンしてしまうと事業継続が困難となる企業も多いでしょう。また、データの損失は企業の重要な資産を失うことにも繋がります。このように、緊急時でのITシステムの運用・維持に、IT-BCP対策は欠かせないポイントのひとつといえるでしょう。

4.具体的なBCP対策方法

BCPの具体的な対策方法の例として、次のようなものが挙げられます。

クラウド化(代替機の用意、冗長化)

オンプレミス構成では、もし本社が災害で機能しなくなると、本社以外の拠点で業務に支障が出る可能性があるため、BCPを考慮する必要があります。そのため、企業がサーバーをクラウド化する傾向が高まっています。

システムを構成するサーバーなどの機器は代替機を用意することや、冗長化することでシステムを継続的に運用可能にすることが一般的です。サーバーやネットワーク機器を多重構成とし、仮に1台が稼働できなくなった際に代わりの機器が稼働することで業務を継続できるようになります。

データのバックアップ

事業継続において最優先で考えなければならないことは、データ保全です。非常時に重要なデータを失うことは、企業に多大な影響を与えかねないためバックアップをとることが重要です。

また、システムの中核をなすサーバー自体のバックアップをとっておくことで、非常時でも容易に復旧できるようになります。自然災害だけでなく、火災やサイバーテロなどの人災によって企業データが失われるリスクがあります。重要な企業データは日常的にバックアップを取っておく習慣を身につけることが重要です。自動でデータをバックアップするシステムを導入することで、常に最新の情報を保管することができます。

バックアップするシステムによっては、実行完了時に管理者に対してメール通知を行う機能があります。もし、心当たりがありましたら、バックアップ完了通知メールの内容を確認してみましょう。または、バックアップが正常に動作しているのか直接バックアップファイルを確認してみましょう。そのときに、データ保存先の残りの容量にも注意してみてください。容量が逼迫していると正常にバックアップを行うことができない可能性があります。

BCP発動時の連絡体制を整える

BCPの発動における責任者を明確にし、BCP発動時の連絡体制を事前に整えることで、発動時の対応がスムーズになります。発動時には普段利用するメールなどが利用できなくなることも考えられるため、代替となる連絡手段についても検討するとよいでしょう。

5.いまだからこそ見直すBCP対策

「サーバーやバックアップの状況を把握していない……」、というようなことがありましたらベンダーに直接、ご連絡ください。新型コロナウイルスが収束してこれまでの生活に戻ってきた今だからこそ、少し立ち止まってBCP対策を見直す必要があると考えます。まずは、すぐに確認できるところから始めてみてはいかがでしょうか。

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