INDEX
1.DXとは?
2.食品業界はDXが遅れている?
3.いま、食品業でDXが求められる理由
4.食品業DX事例 ~製造・卸・小売、あらゆる分野で進むデジタル化の波~
5.食品業向けERPのご案内
6.よくある質問
DXとは?
昨今、あらゆる分野で導入が進むDXは、デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称です。英語圏で「Trans」を「X」と表記する習慣があるため、このように略されるようになりました。
直訳すれば、デジタル変革といった意味合いになるでしょう。
今やあちこちで耳にするDXという言葉ですが、その使われ方は人や場面によってまちまちです。総務省の「情報通信白書」では、令和2年(2020年)に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を踏襲して以下のように定義されています。
すなわち、
つまりDXとは、ごく簡単にいえばデジタル技術の活用による新たな商品・サービスの提供、新たなビジネスモデル開発を通して社会制度や組織文化なども変革していく取組み全般――ということになります。
食品業界はDXが遅れている?
いま、さまざまな業種でDXへの取組みが進むなか、残念ながら食品業界は他業種に一歩ならずリードを許している状況です。本項では、食品業のデジタル活用状況を踏まえ、なぜDXが進まないのかを考察します。
1.食品業のデジタル活用状況
食品製造現場における IoT・デジタル技術の活用状況について、農林水産省が調査・報告しています。
報告書によれば、売上高100 億円以上の企業では54.9%の企業がIoT・デジタル技術を活用しているのに対し、売上高10~100 億円未満の企業では、わずか31.8%に留まります(図1)。
2.食品業のDXはなぜ進まないのか
食品業は、もともと機械化・デジタル化が難しい業種とされてきました。
まず、製品・商品として取り扱う食品は、規格が画一的ではありません。そのため機械化に馴染みにくく、人の手に依る工程が多くなる事情があります。また、商取引に目を向けても、商慣習の問題から紙書類でのやりとりが多いこともデジタル化を難しくしています。
また、コモディティ化と価格競争が激しく、利益率を高めづらい食品業では、DXへの投資判断が簡単でないことも大きな要因です。
食品製造業を対象にした調査では、やはりDX導入によるコスト増を忌避する傾向が明らかになっています。売上規模10~100億円未満の食品製造業におけるデジタル技術の未活用理由としては、多い順に「イニシャルコストの負担」「デジタル技術に詳しい人間がいない」「ランニングコストの負担」と続きます。
3.結果として上がらない食品業の労働生産性
結果、食品業の機械化・省人化は、他業種よりも進んでいません。当然ながら、労働生産性についても他業種の後塵を拝しているのが実情です。
農林水産省が公表している業種別労働生産性比較を図に示しました(図2)。食品製造業・食品卸売業・食品小売業のすべてで、業界平均より見劣りすることがわかります。
特に食品製造業の労働生産性は、製造業平均の約6割に過ぎません。
こうした現状に危機感を示す声は、有識者を中心に、けっして少なくありません。それは昨今、食品業が迎えている大きなターニングポイントに起因してのことです。
いま、食品業でDXが求められる理由
食品業でDXに期待が集まっている背景として、現在の食品業が置かれた厳しい事業環境があります。以下、3つのポイントで整理してみましょう。
1.止まらぬ物価高騰
昨今、食品業でDXが急務とされる背景のひとつに、急激な物価の高騰が挙げられます。
2022年以降、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギーコストや穀物価格の上昇、干ばつ・気候変動による凶作、2024年問題や賃上げによる人件費増などの悪条件が重なり、現在、食品・包装資材・物流関連のコストが急騰しています(図3)。
もとより、製造時や在庫廃棄のなかで発生するフードロスは、食品業にとって大きな課題でした。原材料が高騰するなかで、フードロスによる利益率の圧迫は強まっており、より精緻な原価管理と在庫管理が希求されています。
2.消費行動の変容
ついで、消費トレンド、消費者ニーズの変化についても無視できません。
消費者の嗜好の多様化に伴い、多くの食品業が多品種小ロット化に舵を切っています。多くの製品・商品ごとに適正利益を確保するには、これまで以上に綿密な生産計画・販売計画が不可欠です。
また、HACCP義務化以後、食品業に求められる品質基準・衛生基準は高まる一方で、高精度なトレーサビリティ構築も急務のひとつといえるでしょう。
ほかにも、新型コロナウイルス禍以降、食品業ではEC市場が急拡大しており、もはやデジタル化への対応は避けられない流れといえます。
3.人手不足問題
最後に、生産人口の減少に起因する構造的な人手不足問題も看過できません。
他業種にDXで遅れをとったぶん、食品業では業務の大部分を労働者の手に依存してきました。結果、労働生産性が低くなり、賃上げもままならない状況です。パートやアルバイトなどの臨時雇用が多い事情もあって、他業種への人材流出にも歯止めがかかりません。
労働生産性を高め、従業員一人ひとりの賃金を上げていくことは、食品業の事業継続において喫緊の課題といえるでしょう。
食品業DX事例 ~製造・卸・小売、あらゆる分野で進むデジタル化の波~
食品業にDXが必要であることは、もはや議論の余地がありません。本項では、食品製造業・食品卸売業・食品小売業、3つの分野で普及が進むDXについて、事例とともにご紹介します。多くの企業で採り入れやすい中規模企業の事例を中心に集めましたので、参考にしていただければ幸いです。
1.食品製造業のDX――食品工場のスマート化
食品製造業は、卸や小売に比べて原材料費の変動で利益率に影響が出やすい業種です。財務省の「法人企業統計調査」をみても明らかで、売上高については伸びているにもかかわらず、粗利については目減りしていることがわかります(図4)。
そんな食品製造業で現在、官民足並みを揃えて推進されているのが、食品工場のスマート化、いわゆるスマートファクトリーです。
旧態然とした工場の在り方から、AIやIoT、ロボットを駆使した省力化・自動化への転換をめざそうというもので、視覚的なインパクトも強いこともあり、食品業におけるDXの象徴とも目されています。
機械化により人件費を大幅に削減するスマートファクトリーは、これまではスケールメリットを得やすい大手食品メーカーでの導入がさかんでした。一方で、中規模の食品製造業からも、さまざまな実験的な取組み事例が報告されています。
売上規模10億~100億円未満の食品製造業で、実際に導入されたスマート化事例について、以下に一覧にまとめました。
野菜・果実缶詰・保存食料品製造業 | ・カメラを使った自動検品、センサーを導入した異物混入チェック ・箱詰め工程・包装充填などの工程をロボットで省人化 |
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しょう油・食用アミノ酸製造業 | ・検品の工程をカメラセンサーで遠隔監視 |
パン製造業 |
・製品のピッキングに QR コードを導入 ・生産管理システムでトレース管理を自動化 |
めん類製造業 | ・センサーを活用して冷蔵庫の自動温度管理 ・製品のラベル印字のチェックをカメラとセンサーで自動化 |
豆腐・油揚製造業 | ・受発注から製造工程の在庫管理、出荷の工程までを連携できるシステムを導入 |
全体の傾向として、検品や箱詰めなどの後工程部分の省人化事例が目立ちます。製造・加工工程については、省人化のニーズが高いものの、技術・コスト面で導入が難しい事情がみてとれます。
また、基幹業務のシステム化は、全業種で導入しやすい施策であるため、多くの事例が報告されています。ニッチといえる分野の情報を、貴重な資産として有効活用できるかどうかは中小規模の食品事業者にとっての生命線です。そのため、IT導入補助金をはじめとして中小企業を対象にした制度を上手に活用しながら、多くの事業者がDXを推し進めています。
食品業のスマートファクトリー3大事例
2024年最新版
2.食品卸売業のDX――FAX・紙書類からの脱却
食品卸売業は、食品製造業や食品小売業と比べて利益率が低い業種です。D2Cを採用する食品メーカーが増えていることからも、厳しい事業環境にあります。適正利益を確保するために、DXが特に強く望まれる業種といえるでしょう。
DtoC(Direct to Consumer)の略。生産者が卸売業者を介さず消費者に直接販売する事業モデルのことで、EC拡大とともに食品業やアパレル業界で急速に普及しつつある。国内のD2C市場規模について、2025年には3兆円を超えると推計する報告もある。
食品製造業
粗利率 20.7%
食品小売業
粗利率 30.2%
食品卸売業
粗利率 11%
中小企業庁の「令和3年度取引条件改善状況調査」によれば、卸売業全体で電子受発注に対応済みの事業者は半数を超えています(図5)。
ただ、小規模の小売業を取引先とするケースが多い食品卸売業では、現在も受発注の大部分をFAXや電話に頼っているケースが少なくありません。
受発注業務の頻度が高い食品卸売業では、FAXや電話で運用する場合、専用の人員を置く必要が生じます。受発注業務をデジタル化することで、(1)作業効率向上、(2)人的ミスの軽減、(3)蓄積したデータをもとに価格分析ができる、といったメリットが見込めるでしょう。
もちろん、受発注業務のデジタル化については、費用対効果が不透明・小売店に対応要請する必要があるなど、さまざまな問題もあります。
食品卸売業界に求められるDXとは?
3.食品小売業のDX――オムニチャネル
消費者のEC依存が急速に進むなかで、食品小売業においてもデジタル化への要請外圧が高まっています。
食品製造業や食品卸売業におけるDXは、コスト削減の意味合いが強いものでした。ただ、食品小売業では、実店舗とECの統合・連携によるビジネスチャンスの拡大といった攻めのDXが主眼となります。いわゆるオムニチャネルです。
POSレジシステム・EC管理システム・店舗管理システムを連携させて、実店舗とEC店舗の在庫情報・販売情報を一元化してCXの最大化をめざすオムニチャネル戦略は、店舗数が少ない中小規模の食品小売業ほど導入ハードルが低く、有利とされています。
食品小売DXを実現する
リテールテックとは?
食品業向けERPのご紹介
本稿では、中小規模の食品業事業者さまのヒントになるよう、比較的採り入れやすいDX事例を中心にご紹介しました。
とはいえ、こうした一連の施策は、業態や運用、工場の設備面などさまざまな制約があるため、一律で導入できるものではありません。
食品IT NAVIでは、食品業のDXの第一歩として、ERPシステムによる基幹業務の統合・最適化をおすすめしています。
販売管理・生産管理・原価管理といった基幹業務は、製造・卸・小売、あらゆる業種の食品業に共通する経営のコアです。それだけに、ERPシステムは導入事例も多く、技術面も成熟しており、安定稼働と確実な効果が見込めます。統合した経営情報を活用すれば、原材料の激しい値動きや消費者行動の変化にも対応できる強靭な経営基盤を実現できるでしょう。
特に、食品業向けに特化した “スーパーカクテルCore FOODs” なら、多くの導入実績をもとにした高い機能性とサポート体制が大きな魅力。
IT導入補助金の対象システムでもあるため、コストを抑えての導入が可能です。
詳しくは、製品紹介サイトをご覧ください!
よくある質問
- Q.DXという言葉の初出は?
- A. 「デジタル・トランスフォーメーション」という概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱されました。教授の定義によると「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされています。その後、平成30年12月に経済産業省が公表した「DX推進ガイドライン」において、抽象的かつ世の中全般の大きな動きを示す考え方から進めて企業が取り組むべきもの、と示されています。
- Q.DXとデジタイゼーション/デジタライゼーションの違いは?
- A.デジタイゼーションは会社内の特定の工程における効率化のためにデジタルツールを導入すること、デジタライゼーションは自社内だけでなく外部環境やビジネス戦略も含めたプロセス全体をデジタル化することです。DXは、デジタル技術の活用による新たな商品・サービスの提供、新たなビジネスモデルの開発を通して、社会制度や組織文化なども変革していくような取組みを指す概念であり、似て非なるものといえるでしょう。
- Q.食品会社におけるDXのメリットは?
- A.食品会社がDXに取組むメリットとして、生産効率の向上やコスト削減、品質管理の精度向上、包括的な在庫管理やサプライチェーンの最適化によるコスト削減などが挙げられます。なにより、蓄積したデータを迅速に経営判断に活用できる体制を実現することは、今後、食品業を発展させる大きな原動力になるでしょう。
- Q.中小企業でもDXはできますか?
- A.スケールメリットの問題から、DXによる省人化は大企業ほど効果が大きくなります。中小企業では、人的リソースやコストの面から導入が難しいという事情もあります。ただ、人手不足は中小企業ほど深刻で、今後もその傾向が強まることは確実です。そのため、IT導入補助金などを活用しながら、多くの中小企業がDXに向けて取組んでいるところです。
【参考】
・総務省「令和3年 情報通信白書」
・矢野総合研究所「令和4年度 食品製造業における生産性に関する調査委託事業 調査報告書」
・農林水産省「食品製造業における労働力不足克服ビジョン」
・財務省「法人企業統計調査」
・中小企業庁「令和3年度取引条件改善状況調査」
・中小企業庁「中小企業の受発注デジタル化」
・EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社「受発注のデジタル化に関する推進方策報告書」
・日本政策金融金庫「食品関係企業の約8割が原材料高騰等に伴いコスト増加」