HACCP

食品安全ハザードとオペレーション上での予防手段

はじめに

 2020年2月21日に始まりおかげさまで1年間、毎月続いたこのコラム連載。初回で個人飲食店でもできるHACCPの考え方を取り入れた“最軽量アプローチ”を学び、次いで第2回ではHACCPが国際的な食品安全の共通言語としての道具であることを確認し、第3回では日本の10大誤解を紹介して世界では便利な道具として知られるHACCPへの認識をむずかしく誤解させてしまったことを、第4回ではHACCPが取扱う“ハザード”とはそもそも何者なのかその概念をサイコロに見立てて、第5回では食品安全文化に根差したトップのコミットメントが必須であることを解説しました。

 次のステージでは、より具体的な一般衛生管理項目について、まず全項目に必須となるトレーニングについて第6回に解説。次いで、施設全体で管理される項目として3つ、まずサニテーション及びメインテナンスについて第7回で、個人衛生を第8回第9回で、設備・設計デザインの要件を第10回第11回で解説しました。フードチェーンの管理項目として第12回に、農場等一次生産、輸送、消費者情報について一挙解説(これが前回)したところです。

 いよいよここからは第4回で紹介した“出たとこ勝負のサイコロの目”(اَلزَّهْر‎;az-zahr―アザール) 、すなわち食品等事業者が最低限保証しなければならない「食品安全」を脅かす可能性のある“ハザード”をサイコロゲーム(a game of dice)ではなく、きちんと制御下に置けるためにどうしたら良いのだろう、というCodex「オペレーションのコントロール」について解説いたします。

食品安全はビジネスを継続するための大前提

 食品事業を営む皆さまは、おしなべて、すなわち食品の生産(一次生産を含む)、加工、製造、調理、包装、保管、流通、小売、フードサービスのオペレーションに至るまで、最終消費者であるヒトがその消費に満足できるように、安全で消費に適した商品を設計し、その設計を実現するための原料調達から、製品組成、加工工程、流通や表示の設計を実施されているはずです。つまり皆さまの現場では、あえて申し上げるまでもなく“すでに”日夜「お客さまに安心して喜んでいただける食の提供」を必須使命として、日々のオペレーションを遵守されているのではないでしょうか。

 ところが実際には食中毒や食品事故、製品リコール等の諸問題はたびたび発生しています。これらは国内だけでなく、原材料原産地も、取引関係も、販売先も、ましてやSNSによる情報共有もどんどん世界的になって、この20年来で国際的な品質保証の問題に発展してきております。そのため、第2回でも示した通り国連WHO/FAO(世界保健機構/国際食糧機関)合同の食品規格委員会Codex(聖典の意味)が示すHACCPに沿った“衛生管理の見える化”が、国際的に推奨される共通言語とされており、この度日本でも法制化・義務化されたということです。

ハザードのコントロールをレビュー可能にする

 最も大事なことは食品事業者等がその食品安全性の責務を果たすために日々行っているオペレーションを、第三者に証明可能であるよう計画書と記録付けで“見える化”することです。新しい食品衛生法で求められる法的要求事項とは、皆さまが作った衛生管理計画書がその通りに実施された場合に期待される食品安全レベルを遵守できる有効なもので、かつ衛生管理計画をその通りに実施した記録が残されている状態が維持されることです。

 この衛生管理計画で特定した衛生管理項目は予防的であることが求められます。“予防的”の反対語は“事後的”です。つまりは食中毒や食品事故、製品リコール等の諸問題が起きてから対処するのではなくて、それら問題が起きる要因を“予(あらかじ)め防ぐ”ということです。予防するには危害を及ぼす要因を知っておく必要があります。これらをハザード(危害要因)と呼んでそれぞれの施設に特有のハザードを特定し、その予防的手段を衛生管理計画に書き起こし、その実施状況を記録します。記録は皆さまのオペレーションが適格に実施されたという証拠です。もし同業者や取引先で諸問題が発生した場合でも、自身は非難されるようなことはやっていないと、堂々と証明できる体制が担保できるわけです。

Codexが示すオペレーションのコントロール

 Codexが食品衛生の一般原則として示すオペレーションコントロールは図の通りです。特に大事なのが「2 衛生コントロールシステムの鍵となる部分」となりますので、次回以降なるべく具体例を挙げて説明したいと考えています。この解説を読むにあたりあらゆる食品事業者等に持っていただきたい基本的な質問は「消費される食品の安全性と適切性を確保するために何が必要で、何が適切か?」です。これから挙げるいくつかの事例はある事業者にとっては必要であり適切かもしれませんが、別の事業者にとってもそうであるとは限りません。あくまでも自社に当てはめて考える、“常識的な”判断が大切です。

杉浦 嘉彦
 執筆者 

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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