HACCP

プロセスステップを俯瞰するのがフローダイアグラムの目的(Codex 19.4);HACCP 2022最新版に準拠!!

プロセスステップを俯瞰するのがフローダイアグラムの目的(Codex 19.4);HACCP 2022最新版に準拠!!

はじめに

 Codex 2022年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2部「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」の「19.4:フローダイアグラムを構築する (手順4)」について解説します。この19.4も前々回の手順2、および前回の手順3と同様に1文節となりますが、文字数情報が多いので前半を総論とし、次回の後半を事例解説としましょう。

 繰り返し解説してきたように“前手順”とはハザード分析のための現場情報の“見える化”作業です。したがいまして、本来作成目的の違う、従来工場で使用されてきた「QC工程表」や、従来厨房で使用されてきた「レシピ」とは似て非なるものかもしれないし、別途で作成しなければいけないかもしれません。特に食品安全(HACCP)は、品質とは“モノサシ”が違うため明確に区別をしなければいけないこと第36回の説明で強調したところでもあります。従来帳票を流用(併用)することが効率運用に資するのか否か、その判断が大切になります。

“リワーク”などイレギュラーステップこそカバー

 まず、前の版まではフローダイアグラムを「HACCPチームにより作成される」としていた記述が削除(図青字)されたことについて、これは「手順1 HACCPチームを編成し、範囲を特定する」において“HACCP チームはHACCP 計画の作成に遂行責任がある”(第50回)と、記述の重複をただ単に割愛されただけのものとお考え下さい。

 ここで従来の2003年版からすでにあった記述を先に解説しましょう。図を見ていただいてわかる通り、ほぼ赤字(Codex 2020,2022 最新版で追加あるいは変更のあった箇所)が占めていますが、旧版から残っている記述は「製造プロセス内の全ステップがカバーされるべき」「類似するプロセスステップの複数製品に同じフローダイアグラムが使える可能性」に加え、次回解説する「ある特定のプロセスでHACCP適用の場合、その特定のプロセス前後のステップについて実施状況を考慮すべき」という大きく3点でした。

スライド

 食品製造現場では多くのイレギュラーがあり、その代表が「リワーク」(再利用)です。本来は上流から下流へ一方向の製造ラインがこのリワークで上流のステップに戻る。プロセスコントロール手法であるHACCPの前提を根底から崩しかねないのがこのリワークです。これ以外にも用途変更や外部委託、廃棄などプロセス中での正規フローからの切り替えはそれぞれの現場で、それぞれの判断により実施されています。出荷されるすべての製品の全ステップがカバーされるべきであり、リワークや用途変更は捨て置けないわけです。

フローダイアグラム作成は目的でなく“手段”

 「全ステップがカバーされる」ことを満足させるべく、フローダイアグラムはハザード分析に資する見える化という目的を越えてやたら詳細化される傾向があり、特に品質管理システムと統合すると顕著に複雑化してしまう場合が多いので注意が必要です。品質は製品毎、非常に事細かく「総花的」チェックが求められる一方、食品安全は失敗主義に照らしてハザードに焦点を置いた「集中的」チェックとなる違い(第44回参照)があります。

 したがって食品安全に特化すれば「類似ステップある複数製品に同じフローが使える可能性」を検討できる余地があります。多品目製造ならグループ化の検討が国際的であることを、前々回に解説しましたが、ここでは製品群としてグルーピングしなくとも、フローダイアグラムを共有することでシンプル化できるという可能性を示しています。実際、米国の専門トレーニングでは、受入れる原材料を事細かに分けず、「冷凍保管原材料」「冷蔵保管原材料」「常温保管原材料」「資材」と大分類して縦軸をシンプル化したフローダイアグラムを例示されました。

 製品やステップのグループ化ではプロセス記述(第15回)が役立ちます。フローダイアグラムがハザード分析のために原材料の受入れから出荷まで俯瞰する目的で作成される「道具である」ことを、忘れないようにお願いします。

グルーピングとモジュール分け駆使し「俯瞰」の目的果たそう

 次に2020年大幅改訂で新たに追加になった赤字部分を見ていきましょう。赤字部分は大きく分けて4つの要求事項が示されています。

①フローダイアグラムには、成分や食品接触材料、関連する場合は水と空気の投入を含む、すべての投入を示す必要がある。

⇒上述したように受入れる原材料は大くくりできますがすべての投入(input)をカバーしなければいけません。食品接触材料が化学製ならば包材(第28回)と同様に考えます。水には第29回の通り氷や蒸気もあり、添加物や空気も微生物増殖等ハザードに影響を及ぼす可能性を考慮するために記述が抜けてはいけないわけです。

②複雑な製造オペレーションは、より小さく、より管理しやすいモジュールに分けることができ、複数のフローダイアグラムを組み合わせて開発することができる。

⇒フローダイアグラムはプロセスステップを俯瞰するためにありますから、複雑すぎては使用の目的にかないません。そこでモジュール化という概念が新たに打ち出されました。

③フローダイアグラムは、ハザードの発生、増加、減少、または混入の可能性を評価するための基礎として、ハザード分析において使用するだろう。

⇒前手順はハザード分析で使用するための“見える化”であること改めて強調しています。

④フローダイアグラムは、ハザード分析を行うために必要な範囲で、明確かつ正確かつ十分に詳細である必要がある。

⇒QC工程表やレシピとは使用目的が違うので、あくまでもハザード分析のため必要な範囲でモレなくステップを“見える化”することが求められます。その目的に照らして「明確かつ正確かつ十分」(clear, accurate and sufficiently)である必要があります。具体例は次回、整理していきましょう。

杉浦 嘉彦
 執筆者 

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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