はじめに
Codex 2022年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2部「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」の「19.5:フローダイアグラムの現場確認をする (手順 5)」を解説します。前節2回(前々回、前回)と同様に1文節ですが2回に分けることはせずこの1回のみで解説を進めます。…といいますのもこのステップは、Codex 2020大幅改訂でも追記がなく、古い規格とのフィット&ギャップを説明するのに多くの文字数は必要ないからです。しかし、Codex 2020改訂時には2点の単語を差し替えました。その目的と時代推移を正確に理解することは現場で活きるHACCPを実現する扶けとなるはずです。以下、説明していきましょう。
現場確認を行う者はハザードコントロールに十分な知識を有すべし
Codex 2022年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2部「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」解説で今回触れる「19.5:フローダイアグラムの現場確認をする (手順 5)」は、2020年版の大幅改訂で特に追記がなく2点の単語を差し替えたのみだったことを上述いたしました。具体的に改訂された2単語というのは、「オペレーション(operation)」が「活動(activities)」に、「ねばならない(must)」が「するべき(should)」に差し替えられています。どうしてわざわざ変更したのでしょうか。
そもそも手順5の目的は、いよいよ次の手順6のハザード分析(原則1)に入るために、背景情報の見える化が正確であり、かつハザード分析のために精緻化されているか(すなわち、“正直さ”の確保)どうかを求めているのであって、作成したフローダイアグラムが現場オペレーションと単に一致しているかどうかを確認するに止まらないのです。例えば、第53回で解説しました“製品の記述”における安全性情報を振り返ってみましょう。要は、成分組成、物理的/化学的組成(例えば、水分活性、pH、保存料、アレルゲン)、加工方式/技術(加熱処理、冷凍、乾燥、塩漬、燻煙など)、包装、耐久性/貯蔵寿命、保管条件、流通方式等に影響するようなステップをフローダイアグラム内にきちんとカバーできているかということ。そして、多品目製造を製品グループとして見える化したならば、個別製品での添加物の違いや製品アレルゲンリストなど相違点までカバーできているかよく観察する必要があります。
また、第54回で解説しました販売後の取扱いや喫食対象が誰かまで想い起こして現場観察をする必要があります。特に「そのまま食べてしまう」(RTE;Ready-to-eat)ことが想定される食品においては非加熱/加熱後ステップでの活動は再汚染の可能性を考慮して相当つぶさに現場検証するべきでしょう。同じようにアレルゲン交差接触を予防するステップもカバーできているでしょうか。
このように、現場確認を行う者はハザードコントロールに十分な知識を有するものでないと、背景情報の見える化の正確性や、ハザード分析のための精緻化に不足が残ってしまいかねないわけです。したがいまして第50回に解説した通り、非効率で効果を実感できない「徒労HACCP」に陥らないためにHACCPチームは経営層のコミットの下、生産からメインテナンス、品質コントロール、洗浄および消毒などオペレーション内のさまざまな活動に遂行責任をもつ多分野チームである必要があったわけです。加えて、第51回に示した通り外部専門知識の活用が必要なのかどうかこの段階で検討し直しても構わないわけです。そしてもちろん第52回に示した範囲をカバーし、かつ逸脱しないこと忘れないようにしましょう。
こうしておさらいしながら見ていくと、この「手順5:フローダイアグラムの現場確認」は、手順1~4のいわゆる前手順の総決算であることがご理解いただけるでしょうか。
「ハザードコントロール」(オペレーション)内の“活動”に焦点
さて、「オペレーション(operation)」が「活動(activities)」に、「ねばならない(must)」が「するべき(should)」に差し替えられたのはなぜか、というポイントに解説を戻しましょう。また英語の話になって申し訳ないのですが、やはり「operation」と「activity」の意味の違いから入る必要があります。どちらもカタカナ語表記(オペレーション、アクティビティ)することができ、共通には「活動」と訳語を充てることができます。もう少し展開すると、「operation」は「運転、作動、運行、動き方、運営、経営、会社、企業、手術、作業」、「activity」は「活発さ、活気、好景気、活動、行事」を含意します。流し見ただけでわかると思いますが、「operation」と比べて「activity」はより広義の単語であり、「operation」というのは多くの場合、特定の目的あるプロセスまたは手順を指します。
すなわちHACCPで言うオペレーションとは「ハザードコントロール」である(第19回~第31回で解説)ということです。ここではオペレーション内の「活動」(activity)を観察するということなので、たとえば手順4(前々回、前回)で触れた従来工場の「QC工程表」や、従来厨房の「レシピ」では隠れているかもしれない「ハザードコントロール」のオペレーションを見つけ出すことに焦点を置いているとご理解いただくと、この手順の重要性が心に刺さるはずです。
最後に「must」と「should」の使い分けについて、実は「食品衛生の一般原則」に「must」という単語は使用されていません。これはCodexがそもそも国際的な推奨事項(Recommendation)であるから「should」なのであって、準拠するならば「must」なのです。ただしここでは、「適切な場合」(where appropriate)としていますので適切でない場合は適用除外(まったく従う必要はない)と注意書きした上での「must」であることに注意してください。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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