フードテックとは?
現在、食領域で急速に研究が進む一連の最新科学技術は、“食(Food)”と“技術(Technology)”、二つの言葉を組み合わせてフードテックと総称されます。経済産業省は、同概念を「サイエンスとエンジニアリングによる食のアップグレード」と定義づけました。
新食材の開発からAIやロボットの活用まで、その種類は多岐にわたり、投資額は世界で年間2兆円超。今後、その市場規模は700兆円にのぼるとも試算されています。コモディティ化が進む食品業界にとって、新たな付加価値をもたらす大きなビジネスチャンスといえるでしょう。
2021年、農林水産省は持続可能な食料システム構築をめざす取組みとして「みどりの食料システム戦略」を発表しました。
同戦略においてもフードテックはその柱に位置づけられ、様々な社会問題を解決する原動力としての役割を期待されています。
食分野から社会問題解決に取り組むことは、取りも直さず食品業が抱える課題を解決することにも繋がります。フードテックについて、その背景をもう少し深掘りしてみましょう。
フードテックの背景――SDGsとのかかわり
前述したみどりの食料システム戦略は、2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)を受けて策定されました。
スーパーやコンビニに行けば安全性の高い食品が手軽に買える現代日本では意識しづらいことですが、国連の発表では2021年時点の飢餓人口は8億2,800万人とされています。世界的にみれば人口と食料需要は急速な増加傾向にあり、近い未来、問題の深刻化は避けられません。SDGsに掲げられる17の目標でも「飢餓をゼロに」が二つめに並び、重要視されていることが窺えます。
先進国にとっても、他人事ではありません。新型コロナウイルス禍や現在進行形のロシア・ウクライナ問題でサプライチェーンが大打撃を受け、食料品価格は暴騰中。生産人口減少も止めようがなく、食料の安定供給は大きな課題です。
一方で、FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によれば、世界では食料生産量の3分の1に当たる13億トンが毎年廃棄されています(フードロス/食品ロス)。食を取り巻く環境は、きわめていびつな状況にあるといえるでしょう。
代表的な3大フードテック
そうしたさまざまな課題の解決に向け、現在、世界各国で研究と実用化が進むフードテック。その代表的な事例をご紹介しましょう。
1.代替食の開発
持続可能性の高い食品を求める消費者動向を受け、現在、急速に認知度を伸ばしているのが代替食品です(図)。
例えば植物由来食肉様食品(PBM;Plant Based Meat)は、小売や外食の場面でも、すでに珍しいものではなくなりました。
大豆や穀類などを原料に食肉の食感と風味を再現したもので、口にしただけでは容易に区別できないほどです。海外では動物性たんぱく質の摂取を避けるヴィーガン層に受け入れられており、日本でも健康食品の一環として注目されています。価格が高いのが難点ですが、普及が進めばより身近な食材になるでしょう。
家畜から採取した細胞をもとに作る細胞培養肉も、拡大する食料需要をみたす有力な解決策のひとつです。2013年にオランダで開発された世界初となる細胞培養肉ハンバーガーは、1個当たり25万ユーロ(約3,000万円)と、コスト面で課題を抱えていました。ただ、現在ではわが国でも大手食品メーカーが続々と研究に参画、大幅なコスト減を実現しつつあります。
2.環境配慮型エネルギーへの転換
現在、エネルギーの主軸を占める化石エネルギー(石油や石炭)から、より環境負荷が小さいとされる代替エネルギーへの転換が活発化しているのはご存知のことでしょう。そうした分野でも、フードテックがひと役買おうとしています。
農業機械の電化はもとより、家畜の排せつ物や農作物非食部位など動植物を原料とするバイオマスエネルギーの活用も、カーボンニュートラル実現に向けた代表的な施策のひとつ。効率的なシステム構築と低コスト化を実現できれば、有用な代替エネルギーになりうると目されています。
3.スマート技術の活用
AIやロボット、IoTなどのスマート技術も、いまや食品業においてなくてはならない存在です。
第一次産業の舞台では農薬散布ドローンや無人農機が、第二次産業の分野でも調理ロボットによる製造工程の省人化が進んでいます。第三次産業でも、調理ロボットや配膳ロボットがすでに実用化され、親しまれていることはご存じのとおりです。
AIも同様、第一次産業では天候・温度・土壌成分などの情報を基に最適な農作業の選定や病害虫の予察に役立てられており、第二次産業でも深層学習(ディープラーニング)を活用した高精度の画像認識で自動検品を実現しています(参考記事:食品工場スマート化3大事例 2022年最新版)。
生産や製造の現場だけではなく、流通の場面でもIoTをはじめとするスマート技術はすでに欠かすことができません。経済産業省は電子タグ(RFID)や電子レシートの導入によるサプライチェーン最適化の実証実験を行っており、在庫の可視化によるフードロス削減を目指しています。
人手不足に悩む食品業において、フードテックの発展は福音といえるかもしれません。
企業でできるフードロス削減
フードロスは、単にSDGsの問題というだけでなく、多くの食品業事業者にとって深刻な問題です。燃油や食料品価格の高騰が止まらないなかで、在庫管理の適正化は多くの食品業事業者にとって生命線ともいえる課題です。内田洋行ITソリューションズでは、製造から卸・小売まで、食に関する全領域で、フードロス削減を支援するシステムをご案内しています。
今回の記事で取り上げたフードテックについては、弊社発行の専門情報誌「食品ITマガジン」の最新号でも取り上げています。マガジンのダウンロード/定期購読はいずれも無料。ご関心のある方は、ぜひこちらもご活用ください!
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よくある質問
- Q.フードテックとはなんですか? どういう意味ですか?
- A.食と技術をそれぞれ意味する英語、FoodとTechnologyを組み合わせた造語(Food-Tech)です。
- Q.なぜフードテックに注目が集まっているのでしょうか。
- A.人口増加を背景にした食糧危機やSDGsの観点で課題となるフードロスなど、食品業界は現在、多くの困難な課題を抱えています。それらを解決するためのイノベーションとして、さまざまな種類のフードテックに注目が集まっています。単に社会問題を解決するだけでなく、AIやIoTを用いることで生産性を大幅に向上させるなど、食品業事業者にとってもメリットの大きな取組みです。
- Q.フードテックにデメリットや問題点はありますか?
- A.フードテックの研究開発には大きなコストがかかります。また、ゲノム編集による新たな食品も研究されていますが、それらを普及させるためには安全性を証明して消費者の理解を得る必要があるでしょう。官民挙げての取組みとはいえ、簡単にできることではありません。
- Q.記事内で紹介されたもののほかに、どんな種類のフードテックがありますか?
- A.農林水産省が令和5年(2023年)に発表しているロードマップによれば、3Dフードプリンターやドリンクプリンターなどの新技術も促進対象となっています。硬さや栄養素の調整することで、よりパーソナライズされた介護食を提供するなど、さまざまな活用が可能な新技術です。その他、AIを活用したレシピサービスなどもフードテックの代表的な具体例です。農林水産省のロードマップに一覧が掲載されていますので、詳細についてはそちらもご覧ください。
- Q.諸外国のフードテックをめぐる状況について教えてください。
- A.アメリカでは大豆・エンドウ豆やココナッツ油由来の脂質などを用いた植物性タンパク質食品の開発・販売がさかんです。2023年6月には、鶏由来の細胞性食品について製造販売が承認されました。その他、植物工場でのイチゴの量産化が実現しています。フランスでは代替食として昆虫食がさかんに研究されており、欧州での普及が進んでいます。
- Q.フードテックの安全性は?
- A.各国で新食品の製造販売についての承認が順次進んでいます。日本ではアレルギー低減卵や塩味を補強する減塩スプーンなど、安全性や健康に配慮した研究がさかんです。
【参考】
・農林水産省「みどりの食料システム戦略」
・農林水産省「トピックス7 フードテックの現状」
・農林水産省「食品ロスの現状を知る」
・農林水産省「新事業創出(フードテック等)」
・農林水産省「フードテックをめぐる状況」
・農林⽔産技術会議事務局「研究開発に係る最近の情勢について」
・World Health Organization (WHO)「UN Report: Global hunger numbers rose to as many as 828 million in 2021」
・国際連合広報センター「飢餓をゼロに」
・独立行政法人 農畜産業振興機構「各国における食肉代替食品の消費動向」
・独立行政法人 農畜産業振興機構「米国における食肉代替食品市場の現状」
・経済産業省「令和3年度 流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業 IoT技術を活用した食品ロス削減の事例創出」
・経済産業省「IoT等を活用したサプライチェーンのスマート化」
・METI Journal「経産省がなぜフードテックの旗を振るのか」